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終活者必見!成年後見制度と家族信託はどちらを選ぶべき?

終活

日本経済をけん引してきた団塊の世代も、もはや70代になりました。アクティブに活躍するシニアも多い一方、高齢による健康面や認知症による認知機能の低下、相続など、心配な面も増えつつあります。そんななか、子供に迷惑をかけたくない、というシニアの方々に「成年後見制度」と「家族信託」という制度が注目されています。これらの制度とはどのようなものか、メリットとデメリット、2つの制度の違いや費用、選び方などをご説明します。

Contents

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症などによって判断能力が低下し、自分では適切に財産管理や法律行為ができなくなった人が、第三者である「成年後見人」に代理をしてもらうための制度です。成年後見人は本人に代わり、遺言、婚姻や養子縁組などの身分行為を除き、包括的な権限を持つことができます。
成年後見制度は、本人の判断能力が既に低下している場合に裁判所が選ぶ「法定後見制度」と、本人が元気なうちに将来の後見人を自分で選ぶ「任意後見制度」の2種類があります。法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて3段階あり、後見人の権限は「後見」>「保佐」>「補助」となります。なお、任意後見制度は公正証書による契約でないと無効となるため注意が必要です。

成年後見制度のメリット

成年後見制度のメリットには以下のようなものが挙げられます。

本人の預貯金を動かせる

成年後見人は本人の代理人と公的に認められているため、本人の生活資金として必要な入出金や振り込みなど、預貯金を代理で動かすことができます。

不動産の登記や売買契約を代理で行うことができる

本人が介護施設に入る場合など、成年後見人は代理権を使って本人の不動産を売却することができます。ただし、家裁の許可が必要な場合があり注意が必要です。

本人が結んだ不利益な契約を取り消すことができる

成年後見人は、高額リフォーム契約や不要な健康食品の契約など、本人が結んだ不利益な契約を取り消すことができます。

第三者による財産の使い込みを防げる

本人の財産はすべて成年後見人が管理するため、第三者による本人財産の使い込みを防ぐことができます。

成年後見制度のデメリット

成年後見制度のデメリットは以下です。

親族が後見人になれない場合がある

親族後見人による財産横領事件の多発化により、本人の財産が一定以上ある場合、親族は後見人になれない可能性が高くなります。

途中でやめることができない

成年後見制度を利用すると、本人が判断能力を完全に回復するか、本人死亡まで後見人をやめることはできません。また、弁護士のような職業後見人の解任権限は家裁にあるため、家族が職業後見人を解任することはできません。

ランニングコストがかかる

後見人を依頼する場合、本人の保有資産に応じ本人が死亡するまで毎月報酬を支払う必要があります。また案件次第では、後見人への報酬とは別に、その後見人業務をチェックする後見監督人への報酬も発生する場合があります。

相続税対策ができない

生前贈与は本人の財産を減らす行為なので、暦年贈与(年間110万円以下であれば相続税がかからない)ができません。また、孫を養子にして法定相続人を増やす、という行為もできません。

投資ができない

本人財産の保護のため、本人所有の収益物件の購入や新築、そのための資金調達もできません。そのため本人所有のビル1棟の大規模修繕の可否が問題になることもあります。

成年後見制度の費用

裁判所から弁護士など職業後見人が専任された場合、基本報酬と付加報酬という費用がかかります。

  • 基本報酬
    管理する財産額が1千万円以下:月2万円(年間24万円)
    1千万円~5千万円以下:月3~4万円(年間36~48万円)
    5千万円以上:月5~6万円(年間60~72万円)
    付加報酬は、保険金請求、介護サービスの締結、不動産の処分や管理など通常財産管理以外に特別な行為をした場合に都度発生します。
  • 期間:本人死亡まで

家族信託とは

「家族信託(総称:民事信託)」とは、本人が保有する不動産・預貯金・株などの財産を、信頼できる家族に管理や処分を託す、という財産管理の手法をいいます。ただし、あくまで財産管理の手法であり、財産以外の法的手続きは託すことができません。なお、おひとりさまの場合は、受託者を家族ではなく、弁護士等として同制度を利用することができます。

家族信託のメリット

家族信託のメリットは以下のようなものが挙げられます。

本人の希望に沿った手続きが可能

家族信託は判断能力低下前から財産管理を委託できるため、本人が状況を見届けられるうえ、希望に沿った手続きが行えます。

家裁への報告義務がない

成年後見人制度と異なり、家裁へ財産状況や生活状況を報告する義務がありません。

本人の判断能力低下による資産凍結を防止できる

本人の判断能力が低下しても、財産管理の受託者が本人に代わり財産管理や処分が可能なため、資産凍結を防止できます。

資産の組み換えや積極的な活用ができる

老朽不動産の建て替え、収益不動産の購入、投資などを行うことができます。

倒産隔離機能がある

受託者が借金を背負った場合でも、信託財産は受託者の個人財産とは別に管理されるため、受託者の差し押さえ対象になりません。

財産を継承する仕組み作りが可能

先祖代々受け継いだ土地・家屋など、子の代での処分を防ぎ、孫やその先の代まで財産を継承する仕組み作りが可能です。また、自分の死後発生する相続の受益者を、孫の代まで指定することができます。

信託費用負担が少ない

銀行に受託する場合は高額の信託報酬が必要ですが、家族間では報酬を低く抑える、あるいは無料にすることも可能です。

家族信託のデメリット

家族信託のデメリットは以下です。

設定そのものには、節税効果はない

家族信託は、本人の財産管理が目的であり、財産を相続する場合は相続税が、財産を贈与する場合は贈与税がかかります。

損益通算(前年の赤字と今年の黒字の相殺)ができない

信託不動産が赤字の場合でも、ほかの不動産所得や事業所得などとの損益通算や純損失の繰越控除はできません。

財産以外の契約代理権がない

認知症等で意思能力が喪失された場合、家族信託では本人のための介護施設との契約、介護保険契約、医療の契約などを代理で行うことはできません。この場合は成年後見制度を使って後見人を設定するよう迫られる可能性もあります。

実務に詳しい専門家が少ない

家族信託は新しい資産管理・資産継承の仕組みであるため、実務経験や実務に詳しい専門家が少ない状況です。そのため、実務経験豊富な専門家を見つけることも困難なうえ、相談料やコンサル報酬はやや高額になりがちです。

第三者の監督がないため、受託者の不正や横領の発覚が遅れる

家族信託は家裁のような第三者の監督がないため、悪意の受託者による不正や横領の発覚が遅れる場合があります。

家族信託の費用と期間

  • 費用

法律家への初期信託設定費用(100万円前後)は発生するものの、ランニングコストはかからない(※信託契約書等で財産管理人への報酬を設定した場合を除く)

  • 期間

本人の判断能力がある状態から死後数世代にわたり財産管理を託すことができる。

成年後見制度と家族信託の違いとは?

それでは、成年後見制度と家族信託の違いについて見ていきましょう。

制度の有効期間

成年後見制度は、本人の判断能力低下後から死亡までの一代限りです。家族信託は、本人の判断能力がある状態から死後数世代にわたって財産管理を託すことができます。

財産管理に伴う公的機関関与の有無

成年後見制度の財産管理は家裁による制約がありますが、家族信託は家族間の信頼が基礎のため、公的機関の関与はありません。

経済的負担額の違い

成年後見制度は、申し立ての初期費用が10~30万円。そして本人死亡まで専門職への報酬というランニングコストがかかり続けます。家族信託は法律家への初期信託設定費用(100万円前後)は発生するものの、ランニングコストはかかりません(※信託契約書等で財産管理人への報酬を設定した場合を除く)

法律行為の代理可否

成年後見人は本人に代わり、財産管理や法律行為を行うことができます。家族信託は本人の意思能力が喪失された場合に、家族信託の受託者は財産管理が可能ですが、本人の施設との契約、介護保険契約、医療の契約などを代理で行うことはできません。

資産運用の可否

成年後見人は本人の資産運用はできませんが、家族信託の受託者は本人の資産運用が可能です。

成年後見制度と家族信託、どちらを選ぶべき?

それでは、成年後見制度と家族信託のどちらを選ぶべきでしょう? その答えは「目的次第」です。万が一認知機能に問題が生じた場合でも、財産管理だけではなく、柔軟な投資や運用、生前贈与などの節税などを家族に託したい場合は「家族信託」が適しています。一方、老人ホームへの入居手続きや財産以外のさまざまな法的手続きは「成年後見制度」が適しています。残念ながら長生きも「リスク」といわれるなか、成年後見制度はさまざまなランニングコストが本人死亡時までかかり続けます。そのため、本人が元気なうちは「家族信託」、そして認知機能に問題が出た段階で「成年後見制度」を併用する、という方法も一案かもしれません。

ただし、成年後見制度は使い勝手が悪いうえ、弁護士などの職業後見人の既得権益として悪用されることも多く、現在では悪法となっていることにも注意が必要です。現状、職業後見人は認知症の本人が死ぬまで報酬を得られる制度であるため、自分の既得権益を守るために本人の財産を減らすことを極力避けようとします。

例えば、

  • 同居家族には通例といい、月10万円程度の生活費しか渡さない。旅行や雑誌購読など余計な費用は使わせない。
  • 本人へのお小遣いは、数億円の資産がある人でも月20万円まで。高級食品は不可。
  • 在宅介護は費用がかさむうえ高リスクといい、本人を施設に入れ、介護していた同居家族には仕事をするように言う。
  • 介護施設費用を捻出すると言い、本人の自宅から家族を退去させ、自宅を売却します。職業後見人は、通常報酬とは別にボーナスを得ることになります。

以上のようにして、本人の財産の3分の1くらいが、職業後見人の報酬になることが多いです。なお、本人の財産が500万円以下だと、職業後見人は報酬が少ないため辞退して、家族が後見人に選出されます。(ここ重要なポイントです。)

成年後見制度を検討する際には、本人にとって本当にこの制度が必要かどうかを十分考慮したほうがよいでしょう。

まとめ

成年後見制度や家族信託は、本来どちらも本人の財産や幸せを守る制度でありながら、残念ながら使い勝手がいま一歩な面もあります。どちらを選ぶにせよ併用するにせよ、家族間でご自身の老後問題をしっかり話し合い、自分の思い描く未来に向けた終活の第一歩を踏み出しましょう。