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人生100歳時代の老後資金はいくら必要?リスクも踏まえて考えよう

遺産相続・遺産整理

「100歳まで生きる」といわれている現代。長寿は喜ばしいことである一方、お金のことも気になるところです。人生100歳時代の老後資金はどのくらい必要なのでしょうか。せっかく長生きするなら、経済的懸念は解消させておきたいところです。人生を楽しむために、老後資金について考えてみましょう。

本当に「人生100歳時代」なのか

厚生労働省が発表した平成30年簡易生命表の概況によると、2018年の男の平均寿命は 81.25年、女の平均寿命は87.32年となっています。十分に長寿ではありますが、「人生100歳時代とは言えないのでは」と疑問に思う方もいるかもしれません。そこでさらに、90歳、そして95歳まで長生きする人の割合を予測した数値をご紹介します。

90歳まで生存する人の割合

  • 男性 26.5%
  • 女性 50.5%

95歳まで生存する人の割合

  • 男性 9.6%
  • 女性 26.0%

90歳まで生存する割合は、「女性50.5%」と半数近くとなっています。男性でも「26.5%」と低くない数字です。女性が95歳まで生存する割合は「26.0%」。約4人に1人が95歳まで生きることになります。男性が95歳まで生存する割合は「9.6%」と、女性と比較するとやや低いですが、それでも約10人に1人が95歳まで生きる計算になります。

実際に何歳まで生きるかは分かりません。しかし、少なくとも統計上では人生100歳時代はひとごとではありません。安心して生活するためにも、老後資金について考えることは必須と言えそうです。

老後資金の準備、全体的な筋道は

人生100歳時代の老後資金を考えるとき、まず気になるのは「実際に必要な老後資金額」や「リスクへの備え」など、狭義の老後資金ではないでしょうか。しかし、広義の老後資金は、リタイア後の生活だけでなく、世代間の引継ぎも含めたものと考えられます。そこで広義の老後資金の準備の手順をご紹介します。

1.  親の財産を把握

親世代が存命なら、親の財産を把握します。プラスになることもあれば、援助を行わなければならないこともあるでしょう。

2.  自身の推定余命に応じた老後資金を算出

100歳(もしくは95歳程度)まで生きると仮定して老後の費用を算出します(算出方法は後述)。

3.  自身の遺産を予測

財産を把握し、「1」と「2」も考慮することで遺産が予測できます。

4.  遺産配分を決定

相続問題に発展しないように遺産配分を考えます。法定相続人が相続を請求できる権利である遺留分割合を考慮したうえで考えましょう。

5.  判断力が落ちたときに利用する制度を準備

判断能力が不十分になったときにサポートを受けられる制度は、身元保証、死後事務委任、家族信託、保険、信託銀行、信託会社などがあります。なるべく使い勝手が悪い成年後見制度を使わないように準備しましょう。

狭義の老後資金は「2」になりますが、そこだけを見ていると、親世代への援助を行い資産が不足したり、判断能力が落ちたときに財産を守れなかったりする可能性があります。「4」「5」はすぐに必要なことではないですが、次世代のことを考えるなら、準備しておくべきことではないでしょうか。

この章では老後資金を広く捉えましたが、以後、主に狭義の老後資金について論じていきます。

人生100歳時代の老後資金

狭義の老後資金を考えるうえで頭に浮かぶのが「2000万円」という金額ではないでしょうか。金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」が公になり、テレビやネット上で「老後資金は2000万円必要」と話題になったのは記憶に新しいでしょう。具体的な金額がマスメディアで取り上げられたため、不安に駆られた方も多いと思います。
しかし、この試算は、仕事を退職したリタイア世帯の平均的な家計は、毎月5万を貯蓄から取り崩しているという家計調査等の数字をもとにしたものでありそこから、次のような計算をしています。

老後資金の必要額の試算

  • 統計上の毎月赤字 5万円
  • 退職後の期間 35年と仮定

5万円×12か月×35年=2000万円超

忘れてはならないのは、計算の根拠である「毎月の赤字5万円」が統計上の平均である点です。退職年齢は企業によって差がありますし、再就職をする人も多いです。また、退職後の主な収入源である年金の額も年金形態や加入年数によって変わってきます。当然、支出額も個々の家計で異なるため、必要な老後資金を「2000万円」とひとくくりにすることはできないのです。

老後資金の算出方法

狭義の老後資金を算出する方法は難しくありません。基本的には今の家計の収支のまま100歳(もしくは95歳程度)まで生きると仮定して計算すればいいのです。先ほどの「毎月の収支×月数×年数」で老後資金が分かります。

ただし、収入以外の資産もあるでしょう。また、生活費以外の支出も考慮していきます。

資産

  • 個人年金は受取総額
  • 終身保険は解約した場合に受け取れる「解約返戻金」
  • 株式や投資信託等、金融資産の時価

生活費以外の支出(負債)

  • 今後生じる可能性のある大きな出費(リフォーム・子供の結婚資金など)
  • 年に一度や数回、不定期に発生する出費(旅行・固定資産税・車検代など)

「資産」と「生活費以外の支出」は企業の財務諸表のように、バランスシート(貸借対照表)を作るといいでしょう。資産の方が多ければ家計の純資産はプラスですが、負債の方が多い場合は注意が必要です。負債が多く、かつ、毎月の支出もマイナスであれば、老後資金が不足してしまいます。

とはいえ、仮に老後資金が不足する見込みの場合も、毎月の生活費で調整も可能なはずです。資産と収支に応じてやりくりする姿勢が大切です。

リスクやその他の出費にはどう備える

どんなに厳密に試算をしても、想定外のリスクはあります。代表的なリスクである介護と、避けて通れない臨終にまつわる費用について見ていきましょう。

介護リスク

介護はいつ終わりがくるか分からないため、どの程度費用がかかるかの見通しが立てにくいものです。しかし、統計上の平均はあります。

介護費用の平均

  • 一時的な介護費用(住宅改造、介護用ベッドの購入など) 69万円
  • 毎月にかかる費用 7.8万円
  • 介護期間の平均 4年7か月

生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」より

上記より、介護費用の平均は次のようになります。

  • 69万円+(7.8万円×4年7か月)=498万円

498万円が介護費用の平均となることから、約500万円は生活費とは別枠で用意しておくと安心かもしれません。しかしながら、趣味の費用を介護費用に置き換えるといったように、毎月の生活費である程度調整することも可能でしょう。また、保険に加入している人も多いと推測します。まずは急に必要になる「一時的な費用69万円」を準備するといいでしょう。

臨終にまつわる出費

人が亡くなると葬儀を執り行います。葬儀の費用は一概には言えませんが、一例として親しい者のみで行う「家族葬」の場合、60万円から180万円(東京では200万円弱)が目安です。

新たにお墓を購入しなければならない場合もあります。一般墓の購入総額費用は全国平均200~250万円、東京23区で500万円となっています。葬儀やお墓の費用は決して小さくない金額です。新しい形のお墓として納骨堂や手元供養もあります。納骨堂や手元供養は墓石より費用も抑えられるので検討してみてもいいでしょう。

臨終の費用を賄うことを目的に生命保険に加入する、子供に迷惑をかけないよう資金を用意する、といった方は多いようです。費用の準備をするなら、葬儀内容やお墓の種類についても考えておくことをおすすめします。

資金以外の対応策もある

一見老後資金が不足しているように見えても、介護保険や終身保険の満期金など、思わぬプラス資産があることもあります。不足する見通しだとしても、早い段階でそれを知れば、「節約」「収入を得る」などの対策をとることができます。

加えて、金融資産以外の「財産」にも目を向けたいところです。金融資産が不足していても、子世代と同居したり、広い持ち家を売却しコンパクトな家に住み替えたりすることで、老後の生活を明るくすることはできるはずです。また、いくら老後資金があっても、健康でなければ有意義な老後は送りにくいでしょう。その意味では、健康も重要な財産のひとつです。

段取りよく老後資金を準備し、100歳まで安心して生きよう

老後資金は世代間の引継ぎも含めて考えられるため、意外と多くの視点が費用です。総合的に、ご自身の老後資金を準備していきましょう。準備する老後資金は多い方がいいですが、多いことに安心して支出が増えれば、結局資金が足りなくなってしまいます。保有資金に加え、家族や健康といった「見えない財産」も活用して豊かに、安心して過ごせるようにしたいですね。